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【脳科学・青砥瑞人】習得せよ!「仕事を楽しくするモチベーション」の扱い方

毎日、モチベーション高く働くことができたらどんなに良いだろうか。仕事で失敗してやる気が出なかったり、プライベートでトラブルがありそもそも仕事に取り掛かるのが一苦労だったり……そんな経験がある人も少なくないだろう。

 

そもそも、働くモチベーションを高めるためにはどうすれば良いのだろうか。株式会社DAncing Einstein FOUNDER CEOの青砥 瑞人氏、早稲田大学文学学術院文化構想学部 教授の小塩 真司氏と、AlphaDriveが運営する人と組織の研究機関POT Instituteの平尾 譲二、小谷 奉美が座談会を通して解き明かしていく。

 

本記事は前後編の2部構成でお伝えする。前編では個人が仕事へのモチベーションを高めるために何をすれば良いのか、脳科学の知見をもとに解説していく。

POT Instituteは、AlphaDriveの、人と組織の変革に関する研究開発機関です。POTはPeople & Organizational Transformationの略。チームのミッションは、企業の中にいる多様なひとりひとりの「人」の可能性が、可視化され、発揮され、組み合わされることで、未来の企業価値が高まる社会をつくることです。その実現のために、変革人材の発掘、育成をはじめとした「人材価値の可視化」から、人を重視することで生まれる「企業内の化学反応の可視化」までをテーマとし、各種研究および商品を開発します。

青砥 瑞人(あおと・みずと)

株式会社DAncing Einstein FOUNDER CEO

青砥 瑞人(あおと・みずと)

日本の高校を中退。米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。脳の知見を、医学だけでなく人の成長に応用し、AIの技術も活用する、NeuroEdTech®︎とNeuroHRTech®︎という新しい分野を開拓。同分野において、幾つもの特許を取得する脳神経発明家。新技術も活用し、ドーパミン(DA)が溢れてワクワクが止まらない新しい学び体験と教育・共育をデザインすべく、株式会社DAncing Einsteinを創設。

小塩 真司(おしお・あつし)

早稲田大学文学学術院文化構想学部 教授

小塩 真司(おしお・あつし)

名古屋大学大学院教育学研究科博士課程後期課程 修了、博士(教育心理学)。その後、中部大学人文学部講師、助教授、准教授、2012年に早稲田大学文学学術院文化構想学部准教授。2014年より現職。専門はパーソナリティ心理学と発達心理学。2023年1月、AlphaDrive/NewsPicks POT Instituteの特別研究顧問に就任。

平尾 譲二(ひらお・じょうじ)

株式会社アルファドライブ専門役員 / POT Institute 研究所長

平尾 譲二(ひらお・じょうじ)

東京工業大学工学部建築学科卒業。株式会社リクルートに入社し、じゃらんnetの集客戦略全般を担当して全社イノベーション賞を受賞。
2011年に社内新規事業制度「NewRING(現Ring)」でグランプリを受賞。新規事業開発プログラム「Recruit Ventures」を立ち上げ、事務局長兼インキュベーションマネジャーとして風土醸成・案件募集から事業育成・人材育成までを統括。2018年8月、株式会社アルファドライブ取締役に就任。2023年1月より現職。

小谷 奉美(こたに・ともみ)

株式会社Seize The Day 代表取締役 / POT Institute 主席研究員

小谷 奉美(こたに・ともみ)

コロラド大学デンバー校ビジネス学部金融学科卒。インテル株式会社のプロジェクトマネージャとして、アジア全域での社内向け主要ツール・アプリケーションの開発及び導入を指揮。同社社長補佐官も務める。その後日本マイクロソフト株式会社に転じ、アドバタイジング&オンライン統括本部 シニアマーケティングマネージャを担う。2016年に株式会社Seize The Dayを立ち上げ、エグゼクティブコーチ・組織開発コーチ・リーダーシップトレーナーとして、経営トップや役員などのマインドセット変革、リーダー育成を行う。2021年5月より株式会社アルファドライブに参画。

やる気を左右する「モチベーションメディエータ」とは

 

平尾 仕事へのモチベーションは、日々変化すると思います。そもそもモチベーションとは、脳科学的にどう説明できるのでしょうか。

 

青砥氏 脳科学では、まずモチベーションを引き出す物事や情動をモチベータ、それに応じて脳や身体が反応し、放出される化学物質などをモチベーションメディエータといいます。例えば、ドーパミンやノルアドレナリンといったものがモチベーションメディエータとして知られています。そして、モチベーションメディエータを自己認識した状態のことをモチベーションと呼びます。

 

脳科学的には、モチベーションメディエータにより行動が引き起こされるという理解が定石でした。しかし、最近では行動が先にあり、それがドーパミンなどを生み出す仕組みも解明されてきています。モチベーションメディエータにより行動が引き起こされるケース、行動からモチベーションメディエータが生まれるケース、両方あり得ると言えるでしょう。

 

 

小谷 モチベーションが湧いて行動に至るだけでなく、行動が先にあってモチベーションがついてくることもあるのですね。

 

小塩氏 心理学的に考えても、行動が先にあり、そこからモチベーションが生まれるのではないかと考えています。モチベーションというのは、行動した後にどう理由をつけるかです。例えば仕事をするという行動の理由について、自分の成長や組織の利益のためなど、説明できる状態であればモチベーションが高いと言えるでしょう。自分の行動をどのように解釈するか、それ次第でモチベーションの有無が決まると思います。

 

解釈の枠組みは様々で、心理学の研究も進んでいます。例えば、「言われたから」「怒られるから」というような外発的動機づけ、そして「好きだから」「自分にとって重要だから」などの内発的動機づけなどがよく言われるものです。

 

「まず、行動」ができない……そんなときの処方箋

 

平尾 行動すればモチベーションがついてくるとしても、まずやってみること自体にハードルを感じる場合もあるのではないでしょうか。そんなとき、モチベーションを自分で高めることはできるのでしょうか。

 

青砥氏 嬉しいことがあったり、気持ちが乗ったりしているときに、思いもよらず仕事が捗ったことはありませんか?そのとき、ドーパミンを誘発するベータエンドルフィンが出ている可能性が高いです。僕なんて単純ですから、好きなカフェで大好きなコーヒーを飲むだけで仕事が捗ることもあります。自分で自分の気持ちを高める行動をパターン化することが、モチベーションを左右するセルフマネジメントスキルと言えるかもしれません。

 

もうひとつ、モチベーションを左右する物質であるノルアドレナリンは、何かをやらなきゃいけないという場面で出やすい。締め切りが近いから、集中しなければいけない、というような場面ですね。この物質は、パフォーマンスを後押ししてくれますが、気が散りやすくなるのです。なぜならノルアドレナリンによって生まれるモチベーションは、注意力を分散的に高めるから。狩りをするとき、獲物だけじゃなくて、周囲の状況に注意しなくてはいけませんよね?だから、集中しているけれども、周りの音や臭いが気になってしまう状態になってしまうのです。

 

そんなときにも活躍するのがドーパミンです。不要な音や臭いへの注意を減らし、本当に集中したいことに意識を向けることができます。コーヒーなど気分が上がるモチベータを利用したり、目標やゴールをイメージしたりすることで、ドーパミンの誘発をコントロールできると良いでしょう。

 

 

失敗してもモチベーションを維持する方法

 

平尾 ドーパミンを出す方法を自分なりにパターン化しておけば、モチベーションをコントロールすることができるということでしょうか。

 

青砥氏 それが、単純な話でもないのです。モチベーションが高まり、パフォーマンスを最大化するためには、ドーパミンとノルアドレナリンがちょうど良いバランスで出ている必要があります。

 

仮にドーパミンに基づくモチベーションだけで仕事に取り組むとしましょう。すると、はじめはさまざまなことに挑戦しながら、前向きに仕事に取り組むことができます。しかし、ドーパミンは未知なるものを探索するという性質を持っているため、うまくいかないことも増え徐々にストレスが増していきます。すると、ストレスのある環境下でもやらねばいけないというノルアドレナリンの分泌に変化していきます。それでもうまくいかない場合にはコルチゾールというストレスホルモンが分泌され、パフォーマンスが低下していくのです。

 

 

小谷 ストレスホルモンが分泌されず、前向きに仕事に取り組む状態を維持するにはどうすれば良いのでしょう。

 

青砥氏 ドーパミンによるモチベーションが持続しない原因は、失敗やそれに伴うストレスです。失敗の原因を認識し、それを成長のポテンシャルだと捉え直すことが、モチベーションを維持する鍵になります。失敗に気づかなかったり、ないことにしてしまったりする人は仕事に取り組む気持ちは一定保てるかもしれませんが、成長はあまり期待できないかもしれません。

 

ここで重要なのは、ノルアドレナリンの働きです。ノルアドレナリンは注意力を分散的に高める物質です。ひとつのことに集中していると、どうしても失敗だけに目が向いてしまいます。そうではなく、成長や将来目指す姿へ一度注意を向けることで、現状との差分を認識し、失敗を成功への糧にすることができるでしょう。

 

集中して仕事に取り組み、失敗したりストレスを感じたりしたときは集中を分散させて、現状を正しく認識する。これがモチベーション維持のポイントになると考えています。

 

後編に続く

 

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本記事は、POT Instituteの取材に基づくものです。

お問い合わせはjinzai@alphadrive.co.jpまで。