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【心理学】個々の能力を最大化するために。日本企業の「評価文化」を見直そう

「人的資本経営」に取り組む企業が増えている。

人材を資本と捉え、その価値を最大限に発揮し、企業の成長につなげていくという経営手法だ。

 

不確実で予測が難しい今の時代。

個々の能力を最大化させ、会社の価値向上につなげるために、企業は何から取り組めば良いのだろうか。心理学的な観点から紐解いていきたい。

 

AlphaDrive/NewsPicksの研究開発組織「People & Organizational Transformation Institute(以下、POT)」は、日々変革を起こす人や組織を研究している。

今回、アルファドライブ取締役でPOTを管掌している平尾譲二が、早稲田大学で心理学を研究している小塩 真司教授に話を聞いた。

 

【心理学】『非認知能力』は活路になるか。伸び悩んでいる大人への処方箋」に続いて、企業が社員の可能性を最大化する方法について、POTの見解をお伝えする。

People & Organizational Transformation Institute(POT)

 

POTは、AlphaDrive/NewsPicksの、人と組織の変革に関する研究開発機関です。

POTのミッションは、企業の中にいる多様なひとりひとりの「人」の可能性が、可視化され、発揮され、組み合わされることで、未来の企業価値が高まる社会をつくること。

その実現のために、変革人材の発掘、育成をはじめとした「人材価値の可視化」から、人を重視することで生まれる「企業内の化学反応の可視化」までをテーマとし、各種研究および商品を開発します。

小塩 真司(おしお・あつし)

早稲田大学文学学術院文化構想学部 教授

小塩 真司(おしお・あつし)

名古屋大学大学院教育学研究科博士課程後期課程 修了、博士(教育心理学)。その後、中部大学人文学部講師、助教授、准教授、2012年に早稲田大学文学学術院文化構想学部准教授。2014年より現職。専門はパーソナリティ心理学と発達心理学

平尾 譲二(ひらお・じょうじ)

アルファドライブ取締役

平尾 譲二(ひらお・じょうじ)

東京工業大学工学部建築学科卒業。株式会社リクルートに入社し、じゃらんnetの集客戦略全般を担当して全社イノベーション賞を受賞。
2011年に社内新規事業制度「NewRING(現Ring)」でグランプリを受賞。新規事業開発プログラム「Recruit Ventures」を立ち上げ、事務局長兼インキュベーションマネジャーとして風土醸成・案件募集から事業育成・人材育成までを統括。2018年8月、株式会社アルファドライブ取締役に就任。2019年11月、保有全株式を譲渡してユーザベースグループ入りし、NewsPicks for Businessの事業開発を兼任

「採用」の見直しが、人的資本経営実現の近道

 

平尾 人材の価値を最大限に引き出す人的資本経営に取り組む企業が増えています。小塩さんは、どうすれば人的資本を最大化し、従業員が自分の持つスキルを発揮できると考えていますか。

 

小塩 社内の多様性をどう考えるかが鍵になると思います。個人の多様性を増していくなら、企業が従業員にさまざまな学習の機会を提供するということになりますよね。しかし、組織としての多様性を考えた場合、さまざまな分野のプロフェッショナルを集める方法もあります。多様なスキルを身につけた個人と、多様なプロフェッショナルが集まった組織では、後者の方が幅広い視点を得られると思います。

 

平尾 さまざまな分野のプロフェッショナルを集めた組織は日本に少ない印象があります。なぜなのでしょうか。

 

小塩 採用が原因ではないかと考えています。新卒一括採用が多いので、就職し配属された部署では大学で学んだことを全く生かせないという人も多いです。組織としての多様性を伸ばしていくのであれば、採用方法の見直しが必要かもしれませんね。

 

伸ばすべきスキルは、一人ひとり違う

 

日本企業は採用方法を変えるべきだという声は数年前から聞くようになった。新卒の学生を一括採用するメンバーシップ型採用ではなく、スキルを重視するジョブ型採用を導入する企業も徐々に増えている。

 

しかし、採用方法を変えただけでは不十分だ。現在企業に所属している従業員の育成も考えなければ、人的資本を最大化したとはいえないだろう。

 

 

 

 

平尾 従業員を教育し、その時々で企業が求めるスキルを持つ人材を育てることはできないものでしょうか。

 

小塩 従業員が持つ可能性を伸ばすというだけでは、どうやって従業員を教育すべきかが曖昧になってしまいます。企業が求めるスキルとは何なのか、従業員が持っている潜在的なスキルは何なのかを明確にすることが重要だと思います。

 

平尾 組織として必要なスキルを絞るほど、多様性が失われていくといった懸念もあるのではないでしょうか。

 

小塩 その通りですね。ただ、組織の方針と、従業員の多様性を両立することは不可能ではありません。大学の研究室でも、学生の研究テーマはばらばらですが、教授の方針は一貫しています。ひとつの方針のもとに、多様性に富んだ研究があるという構造です。同様に、組織の方針を明確にし、それに接続するような従業員一人ひとりの可能性を引き出し、伸ばしていくような人材育成が求められるでしょう。

 

平尾 企業でも、個人に向き合う人事施策と、経営方針の結合が求められるということですね。まず経営層が組織の向かう方向性や、必要なスキルを明らかにする。その上で、人事担当者と緊密に連携しながら人材育成を進めていく必要がありそうです。

 

行動の「理由」を明らかにして「Will」を見つけよう

 

従業員一人ひとりと向き合い、従業員が持つポテンシャルや、取り組みたいことをもとにスキルを身につけていく。そして、組織の方向性と結びつけていくことができれば、人的資本経営の実現に近づくのだろう。

 

しかし、従業員と向き合うとは何を指すのだろうか。全ての従業員が、自分のポテンシャルや取り組みたいことを明確に自覚しているとは限らない。

 

 

 

 

平尾 個人が取り組みたいこと、やりたいという意志を我々はWillと呼んでいます。このWillというのは、どのようにして生まれるのでしょうか。

 

小塩 おそらく、動機づけ(前編で解説)と変わらないと思います。行動して、「なぜそれをするのか?」と問われた時、答えが出なければWillがない、内発的動機づけによる答えが出るなら、その行動自体がWillだということではないでしょうか。

 

平尾 Willの正体は動機づけだったのですね。

 

小塩 動機づけと行動というのは鶏と卵の関係と同じです。動機がなければ行動しない、しかし動機を明らかにするときは「行動の理由」を問うのです。行動に対して、どのくらい明確に理由を説明できるか、これが重要だと思います。

 

人的資本最大化のために。「評価しない」組織づくり

 

平尾 仮に従業員のWillが明らかになり、スキルを伸ばすとしても、その方向性は十人十色ですよね。さまざまな人がいる組織を、どのようにマネジメントすれば人的資本経営に近づくのでしょうか。

 

小塩 スペシャリストだらけの組織になったとき、従業員を適材適所で配置していくのは難しいですよね。その状況でお互いを理解しようとすると、多様性が失われ、モノカルチャーになってしまいます。

 

平尾 音楽でいう指揮者のような存在が必要だということですね。

 

小塩 そうですね。多様性を認めつつ、誰かが従業員のスキルを理解し、配置していく。その誰かが評価し始めるとダメですね。評価してしまうとどうしても1つの軸になってしまうんです。成果を測定し始めると、それをハックしようとする人が必ず出てくる。評価しない、ということは重要だと思います。

 

平尾 仕事の成果を数値化し、評価している企業は多いと思います。そうではなく、数値化できるものだけではない、一人ひとりの固有の能力を伸ばしていくということですね。実現するのは簡単ではなさそうですが、それが叶えば大きな力になりそうです。

 

 

 

 

不確実な今の時代、日本企業で当然とされてきた新卒一括採用や人事評価の制度を抜本的に見直すことが求められているのかもしれない。

 

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本記事は、POTの取材に基づくものです。

POTは、変革人材が持つ資質を研究している組織で、ビジネスパーソンの資質を可視化するアセスメント開発などを行っています。

お問い合わせはjinzai@alphadrive.co.jpまで。